2016-10-17(Mon)
熊本地震でわかった行政の耐震対策の矛盾
ひさしぶりに「家づくり」方面の話。
震度7を2回という前代未聞の震災となった熊本地震。
さまざまな問題を建築業界や行政に迫っている。
そもそも、建築基準法もバージョンアップした住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)も、こんな地震は想定していない。
津波もそうだけれども、まさに想定外なのである。
その結果、熊本地震ではこれまでの大震災とはあきらかに違った被害がおきている。
「新耐震」の建物も大きく損傷してしまった。
新耐震というのはなにかというと、1981年(昭和56年)に建築基準法が改正された後に建てられた建物、ということ。
自宅の「建築確認申請書」」がちゃんと残っている方は、引っ張り出してその日付を見てみてほしい。
確認年月日が昭和56年6月1日以降であれば、貴方の家は「新耐震」だ。
これまでの震災では、新耐震かそれより古いかで、歴然と被害の差があった。
ところが熊本地震では、もちろん差はあるけれども、新耐震もかなり大きな被害を受けてしまった。

(国立研究開発法人 建築研究所より)
このグラフを見てひとめで分かるのは、1981年(昭和56年)6月~2000年(平成12年)5月 の被害の大きさ。
その理由は、私ら建築業界の人間にはすぐわかる。
同じ新耐震でも、グラフの真ん中と右では、ぜんぜん中身が違うからだ。
2000年5月で何が変わったのかというと、
①耐震壁のバランス
②柱、梁、筋交いなどを繋ぐ金物
③中間と完了の検査
①のバランスというのはこういうこと

北側に壁が多く、南側の道路や庭に面した側には壁がほとんど無い、というパターン。
間口が狭くて、道路側には壁ゼロなんて家も多かったりする。
絵で見る通り、耐震壁が偏っていると、壁のある側はめっちゃ強いけれど、無い側がブンッと振り回されて家がつぶれる。
新耐震であっても、2000年(平成12年)5月までは、こんなのでもOKだったのだ。おそろし。
②の金物がないとこういうことになる

この写真の家も新耐震だそうである。が、いくら筋交いがあっても、スポッと抜けてしまってはなんの意味もない。
これまた、2000年(平成12年)5月までは強い専用金物でつなぐことは義務じゃなかった。
私はこれ以前から金物使うようにしていたけれど、大工さんに「なんでこんな物つけるんだ」と怒られたものだ。
③は行政やその代理機関の検査。
完了検査はもともと義務なのだけれど、これも2000年くらいまではかなりいい加減で、確認申請とできた建物が全然別物で、検査受けずにそのまま住んでます、という家が圧倒的に多かった。
大きな建物はさすがに行政も厳しいけれど、一戸建て住宅まで手が回らずになし崩しになっていた。
ところが、阪神淡路大震災のあと、多くの行政が中間検査を義務にしはじめた。
筋交いなどができたあたりに、検査に来るわけだ。
これでずいぶん違法建築や金物無し建築などは減ったと思われる。
大工さんの意識も、だんだん「金物は付けなくちゃいけない」と思うようになっていった。
そんなわけで、建築確認申請の日付が、2000年(平成12年)5月以前と6月以降とでかなり大きな差があるってことだ。
本来ならば、前期新耐震 後期新耐震 と区別すべきなのだが。。
■
旧耐震の建物は、耐震診断を激安で受けることができる。
実質5万円かかる診断が、自己負担5千円になる。つまり、4万5千円の補助が、全国どの市町村でも出るはず。
耐震改修工事にも、かなりの補助が出る場合が多い。
例えば、うちの事務所がある吹田市では70万円もの補助金がある。
(詳しくは自分とこの役所にきいてみてください)
ところが、、 行政の耐震対策では、新耐震は新耐震で一本。2000年5月以前と以降の区別はない。
なので、かなり心配な前期新耐震の家には、1円の補助も出ない。
熊本地震の被害から、何年かすると制度も変わるかもしれない。
ただ、阪神淡路から法改正まで5年かかった一方で、東日本から熊本まで5年だったことを思うと、ノンビリ5年待っているのは、心配な人にとっては辛い話だ。
次の改正は、そもそも震度7x2回を想定するのかどうか、などあまりにも大きな課題があるので、そう簡単に結論は出ないだろう。
それまでどうしたらいいのか。
もちろん、5万円を自己負担して耐震診断をするのが一番いい。
でも、なかなか5万円は大きな出費だ。
そこで、ひとつ提案が。
①と②だけなら、簡単に診断することができるので、そこだけでもやってはいかが。
③については、図面通り手抜きしていないかどうかのチェックなので、通常の耐震診断と同じように、床下や天井裏に潜り込んで調査しなければならない。
しかし①と②は図面があれば判定できる。
逆に言うと、図面通りに作っているとしたら、という過程の診断と言うことになるが、それでもやらないよりはやった方がずっと安心だ。
とくに、完了検査を受けた「検査済証」がある家については、①と②をチェックすればほぼ大丈夫。
こうした診断を、できるだけコストをかけずにやるには、
・まず訪問して図面を受け取る。簡単な目視調査
・図面を持ち帰って耐震診断の計算
・結果を郵送して電話やスカイプで説明
これならば、作業1万+訪問経費5千円くらいでできるはずだ。
大阪近郊なら、連絡いただければホンマにやりますよ。
これに行政がわずかでも補助制度を作ってくれれば、実は心配な前期新耐震もかなり安心である。
震度7x2回に耐えられる家をどうやって作るかも大問題だが、まずはできることから、少しでも心配の種を減らしていくことが大事じゃないかと思う。


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震度7を2回という前代未聞の震災となった熊本地震。
さまざまな問題を建築業界や行政に迫っている。
そもそも、建築基準法もバージョンアップした住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)も、こんな地震は想定していない。
津波もそうだけれども、まさに想定外なのである。
その結果、熊本地震ではこれまでの大震災とはあきらかに違った被害がおきている。
「新耐震」の建物も大きく損傷してしまった。
新耐震というのはなにかというと、1981年(昭和56年)に建築基準法が改正された後に建てられた建物、ということ。
自宅の「建築確認申請書」」がちゃんと残っている方は、引っ張り出してその日付を見てみてほしい。
確認年月日が昭和56年6月1日以降であれば、貴方の家は「新耐震」だ。
これまでの震災では、新耐震かそれより古いかで、歴然と被害の差があった。
ところが熊本地震では、もちろん差はあるけれども、新耐震もかなり大きな被害を受けてしまった。

(国立研究開発法人 建築研究所より)
このグラフを見てひとめで分かるのは、1981年(昭和56年)6月~2000年(平成12年)5月 の被害の大きさ。
その理由は、私ら建築業界の人間にはすぐわかる。
同じ新耐震でも、グラフの真ん中と右では、ぜんぜん中身が違うからだ。
2000年5月で何が変わったのかというと、
①耐震壁のバランス
②柱、梁、筋交いなどを繋ぐ金物
③中間と完了の検査
①のバランスというのはこういうこと

北側に壁が多く、南側の道路や庭に面した側には壁がほとんど無い、というパターン。
間口が狭くて、道路側には壁ゼロなんて家も多かったりする。
絵で見る通り、耐震壁が偏っていると、壁のある側はめっちゃ強いけれど、無い側がブンッと振り回されて家がつぶれる。
新耐震であっても、2000年(平成12年)5月までは、こんなのでもOKだったのだ。おそろし。
②の金物がないとこういうことになる

この写真の家も新耐震だそうである。が、いくら筋交いがあっても、スポッと抜けてしまってはなんの意味もない。
これまた、2000年(平成12年)5月までは強い専用金物でつなぐことは義務じゃなかった。
私はこれ以前から金物使うようにしていたけれど、大工さんに「なんでこんな物つけるんだ」と怒られたものだ。
③は行政やその代理機関の検査。
完了検査はもともと義務なのだけれど、これも2000年くらいまではかなりいい加減で、確認申請とできた建物が全然別物で、検査受けずにそのまま住んでます、という家が圧倒的に多かった。
大きな建物はさすがに行政も厳しいけれど、一戸建て住宅まで手が回らずになし崩しになっていた。
ところが、阪神淡路大震災のあと、多くの行政が中間検査を義務にしはじめた。
筋交いなどができたあたりに、検査に来るわけだ。
これでずいぶん違法建築や金物無し建築などは減ったと思われる。
大工さんの意識も、だんだん「金物は付けなくちゃいけない」と思うようになっていった。
そんなわけで、建築確認申請の日付が、2000年(平成12年)5月以前と6月以降とでかなり大きな差があるってことだ。
本来ならば、前期新耐震 後期新耐震 と区別すべきなのだが。。
■
旧耐震の建物は、耐震診断を激安で受けることができる。
実質5万円かかる診断が、自己負担5千円になる。つまり、4万5千円の補助が、全国どの市町村でも出るはず。
耐震改修工事にも、かなりの補助が出る場合が多い。
例えば、うちの事務所がある吹田市では70万円もの補助金がある。
(詳しくは自分とこの役所にきいてみてください)
ところが、、 行政の耐震対策では、新耐震は新耐震で一本。2000年5月以前と以降の区別はない。
なので、かなり心配な前期新耐震の家には、1円の補助も出ない。
熊本地震の被害から、何年かすると制度も変わるかもしれない。
ただ、阪神淡路から法改正まで5年かかった一方で、東日本から熊本まで5年だったことを思うと、ノンビリ5年待っているのは、心配な人にとっては辛い話だ。
次の改正は、そもそも震度7x2回を想定するのかどうか、などあまりにも大きな課題があるので、そう簡単に結論は出ないだろう。
それまでどうしたらいいのか。
もちろん、5万円を自己負担して耐震診断をするのが一番いい。
でも、なかなか5万円は大きな出費だ。
そこで、ひとつ提案が。
①と②だけなら、簡単に診断することができるので、そこだけでもやってはいかが。
③については、図面通り手抜きしていないかどうかのチェックなので、通常の耐震診断と同じように、床下や天井裏に潜り込んで調査しなければならない。
しかし①と②は図面があれば判定できる。
逆に言うと、図面通りに作っているとしたら、という過程の診断と言うことになるが、それでもやらないよりはやった方がずっと安心だ。
とくに、完了検査を受けた「検査済証」がある家については、①と②をチェックすればほぼ大丈夫。
こうした診断を、できるだけコストをかけずにやるには、
・まず訪問して図面を受け取る。簡単な目視調査
・図面を持ち帰って耐震診断の計算
・結果を郵送して電話やスカイプで説明
これならば、作業1万+訪問経費5千円くらいでできるはずだ。
大阪近郊なら、連絡いただければホンマにやりますよ。
これに行政がわずかでも補助制度を作ってくれれば、実は心配な前期新耐震もかなり安心である。
震度7x2回に耐えられる家をどうやって作るかも大問題だが、まずはできることから、少しでも心配の種を減らしていくことが大事じゃないかと思う。


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