2016-11-30(Wed)
年金「賦課方式」の罠
朴槿恵とかASUKAとかのニュースで埋め尽くされている陰で、年金改革法案が強行採決されている。
要するにこういう仕組みで、支給減になりすぎないためのセーフティーネットをはずしてしまおうというもの。

民進党の玉城雄一郎氏によると、このくらい減るらしい

なんたることだ、と思いつつも、年金については 「もらう人数が増えて払う人数が減るのだから、支払いは上がって受給が下がるのはしかたが無いだろう」 と言われるとなかなか反論しにくいのもたしかだ。
しかしこの理屈は、今の現役世代が今の老齢者を支える「賦課方式」を前提にしている。どこを見てもそういう説明しか書いていない。
では、あのGPIFが運用している積立金はなんなのだろう。
純粋な賦課方式だったら、その年に集めた掛け金はその年に使い切ってしまうため、積立金はないはずだ。
そう思って調べてみると、日本の公的年金の仕組みは「賦課方式」ではなかった。
正式には「修正積立方式」といって、賦課方式で使った残りを、将来に備えて積み立てておく、というもの。
さらに、かなりの部分が税金で賄われているので、実際は「賦課、積立、税 混合方式」なのである。
ちなみに、国民年金は1975年、厚生年金は1999年にはその年の掛け金+運用益で、その年の給付を賄えなくなっているので、それ以降に積み増しされた分は、実は税金だということになる。
しかも、2002年くらいからは積立金の取り崩しが始まり、2006年まではGPIFの運用益でなんとか微増したが、その後は大幅に積立金は減っている。
その意味では「賦課、取り崩し、税 混合方式」と言うべきかもしれない。
下のグラフの青を見ると2011年までに30兆円ほど減っているのが分かる。運用益を含めなければ、実際は40兆円くらい取り崩している。

緑が急増しているのは、取り崩し分を補填するために、GPIFで運用する比率を急速に高めたためだ。
官製相場を作って、株などの時価を高め、積立金の「見かけの」残高を増やしたのだ。
なぜ「見た目」かというと、持っている株の価格が上がったので、計算上は残高が増えているけれども、実際にその株を売って利益を確定させたわけではないので、「見た目」ということになる。
なお、最近のGPIFの巨額損失についても、損失確定したわけではない。
問題は、本当に株を売って年金の支払いに回さなければならないタイミングがあるということ。その時の日本とアメリカの株価次第で、大損する可能性があるということ。しかも、自ら買いこんで作った官製相場でキープしているわけで、大きな売りが始まると相場自体が危ない。
それはともかく、そういうわけで、日本の公的年金は 「賦課、運用、取り崩し、税 のミックス」でなんとか成り立っている。
その仕組みと実体についてはこちらのサイトが、分かりやすい
→ これで分かる!「日本の年金制度」の概要と勘所
毎年払われている年金はだいたい50兆円。
そのうち、保険料が33兆円(うち13兆くらいが厚生年金の企業負担)、税金が12兆円、運用益が5兆円 くらい。
よって、個人の負担は23兆円ほどで、全体の半分以下ということになる。
GPIFの積立金残高は今年9月末で132兆751億円だそうだ。
(ちなみに2004年度末で145兆9322億円だったので、実にマイナス14兆円)
たしかに、一般会計の税収に匹敵する額が、年金として支払われていくのだから、大きな問題ではある。
しかし、さかんに政府などが「個人の負担が増えるぞー」と煽る「賦課方式」にあたる部分は半分以下であり、バカな運用をしなければバッファーになる積立金は130兆円以上ある。
また、危機感をあおることで未納が増え、国民年金の納付率は20年前は85%以上だったのに、現在は55%程度だ。
年金に信頼が戻って納付率が上がれば、それだけでも毎年1兆円は収入アップだ。
総じて、賦課方式による危機感を煽りすぎている、というのが現在の姿ではないのか。
■
さて、積立金は130兆か と思っていたら、こんな記事があった
公的年金、積立金8年ぶり200兆円超え 14年度
2016/9/8 日経
厚生労働省が8日発表した2014年度の公的年金財政状況報告によると、積立金は13年度より17兆3千億円増えて203兆6千億円となった。(引用以上)
あれ? 2014年度末は約146兆だったんじゃないの?
50兆円以上もの差はどこから?
それはこれだ

真ん中の三つ、共済年金だ。公務員と私学教職員。
あわせてなんと55兆円もの積立金がある。
でも 共済組合は2015年10月に厚生年金に統合されたんだから、この55兆円は今ではGPIFの魔の手(?)に渡ったんじゃないの。
そう思った貴方。 甘いです。
統合による積立金は、こういう扱いになる

つまり、お財布は別々のまま、紫の部分は「厚生年金のつもり」という勘定をしているだけ。
運用も、GPIFと同じ運用にするという建前はあるけれども、実際は安全運転で損失を出していない
年金5兆円損失でも…「国家公務員共済」安全運転で運用益
2016年8月2日 日刊ゲンダイ
そして、約半分の白い部分は、上乗せ分(3階部分)として、シモジモの厚生年金には手を触れさせず保管される。
統合までに受給していた人には3階部分として、それ以降の人には「年金払い退職給付」という名目で、しっかりと特権は確保されている。
→ 年金払い退職給付が創設されます
しかも、公務員は一般の厚生年金加入者と比べて高齢化率が高い。
つまり、同じ比率の積立金だけで厚生年金に統合されると、今後、もともとの厚生年金の積立金を、公務員の年金が食い込んでいくことになる。
おおさか維新のような公務員をいじめて溜飲を下げる趣味は、私にはないが、かといって、公務員だけが優遇されるのはオカシイ。
公務員が高い保険料を払ってきたのならば分かるけれども、保険料率は一般よりも安かったのだから。
こうして特権を確保した官僚が、一般国民の年金をどうやってカットしようかと頭をひねって作り上げたのが、今回の年金改革法案だ。
今の年金制度を改革しなくて良いとは思わないが、この法案はよろしくない。
年金も含めて、国民が「安心して死ぬまで生きられる」方法を、全知全能を振り絞って考え出す。
それが政治と行政の使命であり、命のナショナルミニマムだ。
それができない、やる気のない政権は、そのイスに座る資格はない。


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要するにこういう仕組みで、支給減になりすぎないためのセーフティーネットをはずしてしまおうというもの。

民進党の玉城雄一郎氏によると、このくらい減るらしい

なんたることだ、と思いつつも、年金については 「もらう人数が増えて払う人数が減るのだから、支払いは上がって受給が下がるのはしかたが無いだろう」 と言われるとなかなか反論しにくいのもたしかだ。
しかしこの理屈は、今の現役世代が今の老齢者を支える「賦課方式」を前提にしている。どこを見てもそういう説明しか書いていない。
では、あのGPIFが運用している積立金はなんなのだろう。
純粋な賦課方式だったら、その年に集めた掛け金はその年に使い切ってしまうため、積立金はないはずだ。
そう思って調べてみると、日本の公的年金の仕組みは「賦課方式」ではなかった。
正式には「修正積立方式」といって、賦課方式で使った残りを、将来に備えて積み立てておく、というもの。
さらに、かなりの部分が税金で賄われているので、実際は「賦課、積立、税 混合方式」なのである。
ちなみに、国民年金は1975年、厚生年金は1999年にはその年の掛け金+運用益で、その年の給付を賄えなくなっているので、それ以降に積み増しされた分は、実は税金だということになる。
しかも、2002年くらいからは積立金の取り崩しが始まり、2006年まではGPIFの運用益でなんとか微増したが、その後は大幅に積立金は減っている。
その意味では「賦課、取り崩し、税 混合方式」と言うべきかもしれない。
下のグラフの青を見ると2011年までに30兆円ほど減っているのが分かる。運用益を含めなければ、実際は40兆円くらい取り崩している。

緑が急増しているのは、取り崩し分を補填するために、GPIFで運用する比率を急速に高めたためだ。
官製相場を作って、株などの時価を高め、積立金の「見かけの」残高を増やしたのだ。
なぜ「見た目」かというと、持っている株の価格が上がったので、計算上は残高が増えているけれども、実際にその株を売って利益を確定させたわけではないので、「見た目」ということになる。
なお、最近のGPIFの巨額損失についても、損失確定したわけではない。
問題は、本当に株を売って年金の支払いに回さなければならないタイミングがあるということ。その時の日本とアメリカの株価次第で、大損する可能性があるということ。しかも、自ら買いこんで作った官製相場でキープしているわけで、大きな売りが始まると相場自体が危ない。
それはともかく、そういうわけで、日本の公的年金は 「賦課、運用、取り崩し、税 のミックス」でなんとか成り立っている。
その仕組みと実体についてはこちらのサイトが、分かりやすい
→ これで分かる!「日本の年金制度」の概要と勘所
毎年払われている年金はだいたい50兆円。
そのうち、保険料が33兆円(うち13兆くらいが厚生年金の企業負担)、税金が12兆円、運用益が5兆円 くらい。
よって、個人の負担は23兆円ほどで、全体の半分以下ということになる。
GPIFの積立金残高は今年9月末で132兆751億円だそうだ。
(ちなみに2004年度末で145兆9322億円だったので、実にマイナス14兆円)
たしかに、一般会計の税収に匹敵する額が、年金として支払われていくのだから、大きな問題ではある。
しかし、さかんに政府などが「個人の負担が増えるぞー」と煽る「賦課方式」にあたる部分は半分以下であり、バカな運用をしなければバッファーになる積立金は130兆円以上ある。
また、危機感をあおることで未納が増え、国民年金の納付率は20年前は85%以上だったのに、現在は55%程度だ。
年金に信頼が戻って納付率が上がれば、それだけでも毎年1兆円は収入アップだ。
総じて、賦課方式による危機感を煽りすぎている、というのが現在の姿ではないのか。
■
さて、積立金は130兆か と思っていたら、こんな記事があった
公的年金、積立金8年ぶり200兆円超え 14年度
2016/9/8 日経
厚生労働省が8日発表した2014年度の公的年金財政状況報告によると、積立金は13年度より17兆3千億円増えて203兆6千億円となった。(引用以上)
あれ? 2014年度末は約146兆だったんじゃないの?
50兆円以上もの差はどこから?
それはこれだ

真ん中の三つ、共済年金だ。公務員と私学教職員。
あわせてなんと55兆円もの積立金がある。
でも 共済組合は2015年10月に厚生年金に統合されたんだから、この55兆円は今ではGPIFの魔の手(?)に渡ったんじゃないの。
そう思った貴方。 甘いです。
統合による積立金は、こういう扱いになる

つまり、お財布は別々のまま、紫の部分は「厚生年金のつもり」という勘定をしているだけ。
運用も、GPIFと同じ運用にするという建前はあるけれども、実際は安全運転で損失を出していない
年金5兆円損失でも…「国家公務員共済」安全運転で運用益
2016年8月2日 日刊ゲンダイ
そして、約半分の白い部分は、上乗せ分(3階部分)として、シモジモの厚生年金には手を触れさせず保管される。
統合までに受給していた人には3階部分として、それ以降の人には「年金払い退職給付」という名目で、しっかりと特権は確保されている。
→ 年金払い退職給付が創設されます
しかも、公務員は一般の厚生年金加入者と比べて高齢化率が高い。
つまり、同じ比率の積立金だけで厚生年金に統合されると、今後、もともとの厚生年金の積立金を、公務員の年金が食い込んでいくことになる。
おおさか維新のような公務員をいじめて溜飲を下げる趣味は、私にはないが、かといって、公務員だけが優遇されるのはオカシイ。
公務員が高い保険料を払ってきたのならば分かるけれども、保険料率は一般よりも安かったのだから。
こうして特権を確保した官僚が、一般国民の年金をどうやってカットしようかと頭をひねって作り上げたのが、今回の年金改革法案だ。
今の年金制度を改革しなくて良いとは思わないが、この法案はよろしくない。
年金も含めて、国民が「安心して死ぬまで生きられる」方法を、全知全能を振り絞って考え出す。
それが政治と行政の使命であり、命のナショナルミニマムだ。
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