2016-12-26(Mon)
ホワイトヘルメットは正義の味方か
戦禍のシリア・アレッポで、がれきの中から瀕死の住民を救出するホワイトヘルメット。
ノーベル平和賞にノミネートされ、日本のマスメディアでもさかんに取り上げられたので、ご存じの人も多いだろう。
シリアの市民救助隊“ホワイト・ヘルメット”
2016年9月12日(月) NHK
上記の記事にも取り上げられているこの写真で、ホワイトヘルメットは一躍有名になった。

だが、私はこの写真を最初に見た時に、言葉にできない違和感を感じていた。
このときは、埃にまみれた男の子とキレイな椅子との対比が不思議な感じがしたのだが、もっとハッキリ意識すれば、記念撮影する前に顔を拭いてやれよ、ということだ。
たまたまタオルがなかったのかもしれない。救護要員とカメラマンは別なのかもしれない。
しかし、瓦礫から救助した直後ならばともかく、キレイなロッカーとエイドセットと椅子がある場所で、なんで一分の隙もなく埃だらけのままなのか?
その違和感を感じながらも、しかし、激烈な戦争は現実におきていて、多くの民間人が犠牲になっていることは疑いようがない。
ロシアの空爆だけでなく、アメリカの空爆にも同じように大々的な批判が巻きおこっていれば、中東の情勢は違ったものになっていたのに、とも思うが、そのことがシリア政府とロシア軍の残虐を緩和するものではない。
それでもなお、どうしても違和感を募らせずにいられなかったのが、ホワイトヘルメットという集団についてだった。
あのおそろいのヘルメットや制服を見ると、どうしてもISISが乗っていた新品のランドクルーザーを思い出してしまう。
もちろん、ホワイトヘルメットの隊員は命がけで救助活動をしてきたのはまちがいない。
活動中に命を落とした人もいるという。
その疑問に答えてくれたのが、青山弘之さん(東京外国語大学教授)のこの記事だった。
「ホワイト・ヘルメット」をめぐる賛否。彼らは何者なのか?
2016年10月21日 NewsWeek
ホワイト・ヘルメット結成を主導したのは、ジェームズ・ルムジュリアーという英国人だということは広く知られている。彼はサンドハースト王立陸軍士官学校を卒業後、北大西洋条約機構(NATO)の諜報部門や国連英国代表部に勤務、コソボ、イスラエル、イラク、レバノンなどで20年以上にわたり職務にあたった。その後2000年代半ばに民間に移籍し、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置く危機管理会社「グッド・ハーバー・インターナショナル」のコンサルタントとなった。このルムジュリアーが、欧米諸国などから寄せられた資金を元手に、2013年3月からトルコのイスタンブールでシリア人の教練を開始し、組織化したのがホワイト・ヘルメットだった。
(略)
また、ホワイト・ヘルメットの活動地域は「反体制派」が支配する「解放区」に限定されている。その理由に関して、公式ホームページでは以下の通り弁明されている。
(略)
レバノン日刊紙『サフィール』(2016年10月7日付)は、ホワイト・ヘルメットが「外国の専門家」から、救助活動だけでなく、メディアでの露出のあり方についての教練を受けているとの「匿名ボランティア」の証言を紹介している(記事の日本語訳は「日本語で読む世界のメディア」を参照)。こうした証言の是非もまた実証できない。だが、ホワイト・ヘルメットが配信する広報資料のなかには、ヒムス県での空爆の被害とされる写真が実際には数日前に撮影されたものだったり、異なる三つの空爆現場で救出されたとされる女児の写真が同一人物のものだったり、と明らかな「ねつ造」が存在する。

(略)
ホワイト・ヘルメットがロシア・シリア両軍の激しい空爆に晒されるシリアで、「地獄のなかの希望」として救援活動を続けていることは厳然たる事実で、彼らの活動は称賛と支持に値する、そう声を大にして言いたい。
しかし、こうした称賛や支持は、彼らが「中立、不偏、人道」を体現していることを意味しない。ホワイト・ヘルメットの支援国や言動は、彼らが「反体制派」であることを示しており、この事実を踏まえずに彼らを評価しようとすれば、「シリア内戦」の実態を見誤ることになりかねない。
(引用以上)
賞賛に値する活動ではあるが、不偏不党の市民組織ではなく米国の支持する反体制派の組織であり、一部ねつ造を含むメディア戦略をとっている、ということだ。
これは、前半があるから後半はないことにする、というものではなく、その逆でもない。
中には、ホワイトヘルメットの救助活動そのものがねつ造だとか、もっと甚だしいのは、爆撃の被害自体がねつ造だというネット記事も見かけるが、もちろん私はそんな記事に同意しない。
怪しげな意図が隠れているからと言ってその全てを否定したり、あるものをないと言ったりする極論や(狭義の)陰謀論は百害あって一利無しである。
(広義の陰謀の存在は私は全く否定しないどころか、あって当然だと思っているが、これはまた別の話)
もちろん、疑問は山ほどある。
なんで、ホワイトヘルメットは安全な場所から戦場へ出動できるのに、戦場の住民は安全な場所に移動できないのか?
上記のNHKの記事の中にも、シリアとトルコを往復しながら活動する隊員のキレイな家が映っている。
そんな移動の自由があるのなら、なぜ住民はもっと早くに非難しなかったのか。
レッポ陥落直前にホワイトヘルメットはこのような声明を出している。
「ここにとどまれば命に危険が及ぶ。女性は収容所に連行され、男性は殺害されるだろう。民間人を助けたことがわかれば、みな拘束されるか処刑されてしまう」ニューズウィーク日本版12月14日
しかし、同じように反体制派の地域で救護活動をしていた国境なき医師団は、陥落後のアレッポ東部に入り、今は政府軍に制圧された地域で活動をしている。
包囲解除のアレッポ市東部で緊急援助――MSFの複数チームが現地入り
2016年12月19日
今のところ、国境なき医師団が民間人を助けたから殺されたという話は聞かない。
まだまだ疑問はたくさんあるが、それでもなお、アレッポがシリア軍とロシア軍によってがれきに山になるほどの酷い爆撃をうけ、多くの民間人が殺されたことは間違いない。
■■
何が言いたいのかというと、「正義と不正義」 「正と邪」のようなド単純な二元論で考えることの危険性だ。
トランプとプーチンと習近平が世界の3巨頭になる2017年。
正と邪で考えたら、なんでもかんでも邪になるに決まっている。
しかし、それでは何の分析にもならない。白馬の王子を待ち望む子どもと同じだ。
正義の味方などいやしない。
そんな現実の世の中で、ではどうするか、を考えることが政治であり生活の選択だ。


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ノーベル平和賞にノミネートされ、日本のマスメディアでもさかんに取り上げられたので、ご存じの人も多いだろう。
シリアの市民救助隊“ホワイト・ヘルメット”
2016年9月12日(月) NHK
上記の記事にも取り上げられているこの写真で、ホワイトヘルメットは一躍有名になった。

だが、私はこの写真を最初に見た時に、言葉にできない違和感を感じていた。
このときは、埃にまみれた男の子とキレイな椅子との対比が不思議な感じがしたのだが、もっとハッキリ意識すれば、記念撮影する前に顔を拭いてやれよ、ということだ。
たまたまタオルがなかったのかもしれない。救護要員とカメラマンは別なのかもしれない。
しかし、瓦礫から救助した直後ならばともかく、キレイなロッカーとエイドセットと椅子がある場所で、なんで一分の隙もなく埃だらけのままなのか?
その違和感を感じながらも、しかし、激烈な戦争は現実におきていて、多くの民間人が犠牲になっていることは疑いようがない。
ロシアの空爆だけでなく、アメリカの空爆にも同じように大々的な批判が巻きおこっていれば、中東の情勢は違ったものになっていたのに、とも思うが、そのことがシリア政府とロシア軍の残虐を緩和するものではない。
それでもなお、どうしても違和感を募らせずにいられなかったのが、ホワイトヘルメットという集団についてだった。
あのおそろいのヘルメットや制服を見ると、どうしてもISISが乗っていた新品のランドクルーザーを思い出してしまう。
もちろん、ホワイトヘルメットの隊員は命がけで救助活動をしてきたのはまちがいない。
活動中に命を落とした人もいるという。
その疑問に答えてくれたのが、青山弘之さん(東京外国語大学教授)のこの記事だった。
「ホワイト・ヘルメット」をめぐる賛否。彼らは何者なのか?
2016年10月21日 NewsWeek
ホワイト・ヘルメット結成を主導したのは、ジェームズ・ルムジュリアーという英国人だということは広く知られている。彼はサンドハースト王立陸軍士官学校を卒業後、北大西洋条約機構(NATO)の諜報部門や国連英国代表部に勤務、コソボ、イスラエル、イラク、レバノンなどで20年以上にわたり職務にあたった。その後2000年代半ばに民間に移籍し、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置く危機管理会社「グッド・ハーバー・インターナショナル」のコンサルタントとなった。このルムジュリアーが、欧米諸国などから寄せられた資金を元手に、2013年3月からトルコのイスタンブールでシリア人の教練を開始し、組織化したのがホワイト・ヘルメットだった。
(略)
また、ホワイト・ヘルメットの活動地域は「反体制派」が支配する「解放区」に限定されている。その理由に関して、公式ホームページでは以下の通り弁明されている。
(略)
レバノン日刊紙『サフィール』(2016年10月7日付)は、ホワイト・ヘルメットが「外国の専門家」から、救助活動だけでなく、メディアでの露出のあり方についての教練を受けているとの「匿名ボランティア」の証言を紹介している(記事の日本語訳は「日本語で読む世界のメディア」を参照)。こうした証言の是非もまた実証できない。だが、ホワイト・ヘルメットが配信する広報資料のなかには、ヒムス県での空爆の被害とされる写真が実際には数日前に撮影されたものだったり、異なる三つの空爆現場で救出されたとされる女児の写真が同一人物のものだったり、と明らかな「ねつ造」が存在する。

(略)
ホワイト・ヘルメットがロシア・シリア両軍の激しい空爆に晒されるシリアで、「地獄のなかの希望」として救援活動を続けていることは厳然たる事実で、彼らの活動は称賛と支持に値する、そう声を大にして言いたい。
しかし、こうした称賛や支持は、彼らが「中立、不偏、人道」を体現していることを意味しない。ホワイト・ヘルメットの支援国や言動は、彼らが「反体制派」であることを示しており、この事実を踏まえずに彼らを評価しようとすれば、「シリア内戦」の実態を見誤ることになりかねない。
(引用以上)
賞賛に値する活動ではあるが、不偏不党の市民組織ではなく米国の支持する反体制派の組織であり、一部ねつ造を含むメディア戦略をとっている、ということだ。
これは、前半があるから後半はないことにする、というものではなく、その逆でもない。
中には、ホワイトヘルメットの救助活動そのものがねつ造だとか、もっと甚だしいのは、爆撃の被害自体がねつ造だというネット記事も見かけるが、もちろん私はそんな記事に同意しない。
怪しげな意図が隠れているからと言ってその全てを否定したり、あるものをないと言ったりする極論や(狭義の)陰謀論は百害あって一利無しである。
(広義の陰謀の存在は私は全く否定しないどころか、あって当然だと思っているが、これはまた別の話)
もちろん、疑問は山ほどある。
なんで、ホワイトヘルメットは安全な場所から戦場へ出動できるのに、戦場の住民は安全な場所に移動できないのか?
上記のNHKの記事の中にも、シリアとトルコを往復しながら活動する隊員のキレイな家が映っている。
そんな移動の自由があるのなら、なぜ住民はもっと早くに非難しなかったのか。
レッポ陥落直前にホワイトヘルメットはこのような声明を出している。
「ここにとどまれば命に危険が及ぶ。女性は収容所に連行され、男性は殺害されるだろう。民間人を助けたことがわかれば、みな拘束されるか処刑されてしまう」ニューズウィーク日本版12月14日
しかし、同じように反体制派の地域で救護活動をしていた国境なき医師団は、陥落後のアレッポ東部に入り、今は政府軍に制圧された地域で活動をしている。
包囲解除のアレッポ市東部で緊急援助――MSFの複数チームが現地入り
2016年12月19日
今のところ、国境なき医師団が民間人を助けたから殺されたという話は聞かない。
まだまだ疑問はたくさんあるが、それでもなお、アレッポがシリア軍とロシア軍によってがれきに山になるほどの酷い爆撃をうけ、多くの民間人が殺されたことは間違いない。
■■
何が言いたいのかというと、「正義と不正義」 「正と邪」のようなド単純な二元論で考えることの危険性だ。
トランプとプーチンと習近平が世界の3巨頭になる2017年。
正と邪で考えたら、なんでもかんでも邪になるに決まっている。
しかし、それでは何の分析にもならない。白馬の王子を待ち望む子どもと同じだ。
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