2008-05-25(Sun)

こんな地震の後だから

阪神大震災のあと、木造建築や瓦屋根へのバッシングともイジメとも言うべき拒絶反応があった。
今回の四川地震についても、こういう理不尽なことがおきるのではないかという心配もあり、少し書いておきたい。

■木造建築は地震に弱いか?

阪神大震災を見て、「シメタ!」と思ったかどうかは定かではないが、住宅メーカーあたりが盛んに流したデマが「木造は地震に弱い」というもの。
たしかに、震災の報道や写真を見れば、大破した木造の家をたくさん見ることになり、こうしたデマは信憑性をもってあっという間に定着してしまった。

他にも、瓦屋根は重いから地震に弱い、という話もまことしやかに流され、被害にあった淡路島にとっては、泣きっ面に蜂。島の重要産業に、壊滅的な打撃を与えた。

これは、重大な問題を意図的にすっ飛ばして、なんでもかんでも木造は弱いと決めつけている。

① 木造建築の絶対数が多いから、被害も多かったということ

 100軒のうち何軒こわれたか、という被害率で見ると、木造は必ずしも弱くなかったことがよく分かる。

songairitu.jpg
清水建設(株)和泉研究室より) クリックで拡大

表の真ん中あたりを見ると、全壊率は、木造で4.42 鉄筋コンクリートで5.58 鉄骨造で5.14 軽量鉄骨造で5.06 となっている。

② 「古い」木造建築の問題は、業者のモラルの問題

1981年の建築基準法が改定される以前の木造建築は、たしかに耐震性に問題があった。

基準も緩かったし、なにより、検査も無くやりたい放題だったので、違法建築、手抜き工事が異常に多かったからだ。
ようやく、木造でも検査をするようになったのは、2000年以降のことで、ほんの最近である。

だから、、被害全数ではなく、非常に大きな揺れになったときにどうか? という率で比較すると、たしかに木造は分が悪かった。

表で言うと、中段の右の方にあたる。
なるほど、ここを見ると、木造は揺れの大きさによって、17~86という数字になっているのにたいし、鉄筋コンクリート3~25、鉄骨4~43、軽量鉄骨3~47となっている。
ただし、81年以降の木造は、1~42であり、震災後の2000年以降は、より強度が向上していることは、まず間違いない。

つまり、ここで言いたいのは、古い木造建築が大きな揺れに弱かったのは、木造という構造や材料に原因があったのではなく、やりたい放題だった業者の問題だったということ。

③伝統建築の倒壊は、様々な理由がある

一般的な古い建物だけでなく、戦前に建てられた伝統建築(いわゆる古民家など)も、多く倒壊したことが報じられた。
特に、北淡町の映像でそれは強調されていた。

もちろん、中には本当に弱い伝統建築もあったと思われる。大工の伝承と経験と勘で建てる伝統建築は、強度のバラツキがあったことは間違いない。
ただ、実際に耐震診断をしてみるとわかることだが、決定的な弱点は、土台が腐っていたり、シロアリに食われていたりすることだ。

伝統建築は、基本的に床下を開放し、ネコやらトトロやらが歩けるようになっているのが基本。
それを、戦後になって、変なリフォームをして床下を塞いでしまった家が非常に多い。これは、家を腐らせているようなものだから、倒壊して当然なのである。

こうした事情をきちんと検討せずに、一概に木造は地震に弱いという言い方をされたのは、非常に残念無念。

④100kgの鉄と毛糸はどっちが重い?

という話を聞いたことが無いだろうか。文字で見るとすぐにわかってしまうけれども、言葉で聞くと、多くの人が「鉄!」と答えてくれる。
つまり、一度思いこんだ感覚は、理屈抜きで体に染みこんでしまうと言うこと。

もちろん、同じ100kgならば同じ重さであり、これは、建築の構造でも言える。
同じ強さに設計すれば、だいたい同じ強さなのである。

厳密には、いろんな特徴の違いはあるけれども、同じ強さの地震を想定して、同じ程度の被害にとどめるように設計すれば、同じような強さの建物ができるのである。
こんなあたりまえのことがわからなくなるほど、「コンクリートは強くて木は弱い」、という戦後のゼネコン思想とも言うべき妄想は根強い。

私は、設計する家は法律で義務づけられていなくても、全部構造計算しているから、自信をもってそう言える。


■なぜ、木はイジメられるのか

1950年代に、国策で植えられた杉や桧は、今、立派な建築用材になる木に育っている。
国策で、どんどん植えろ、といって、広葉樹の綺麗な里山を片っ端から針葉樹の山に変えて、なんと、日本国土の4分の1を植林の山にしてしまったのである。

そんなこんなで50年を経て、やっと育った木は、なぜかイジメを受けている。これは、多くの方が想像するとおり、高度経済成長のせい。

ちまちまと木造の家を建てるよりも、コンクリートで新幹線や大型建築を建てまくった方がはるかに儲かった。
だから、日本の建築技術の主流は、こぞってコンクリートと鉄の世界に進み、木は場外へ放り出された。

場外では、建築のことなんてろくに知らない建売業者が家づくりの分野を担った。
そして、その結果が、上に書いたような欠陥建築の蔓延だったわけだ。


さらに、1980年代に入ると、アメリカ様からの依頼(脅迫)が始まった。
大手の商社を介入させて、アメリカから大量に木を購入し、在庫する。値段も安いし、注文すればすぐに現場に届く。
これは、注文を聞いてからおもむろに山で丸太を伐っていたような国産材の世界は、まるっきり太刀打ちできなかった。

こうして、ゼネコンとアメリカの二大勢力にいじめ抜かれた日本の木は、自分で文句を言うわけにもいかず、山でじっと立っている。
ただし、時々激しい怒りを爆発させるときがある。鉄砲水や土砂崩れだ。

もともと、植物によって固定されていた山の土は、人工的に植林された時点で弱くなっている。
それが、管理されずに放置されると、災害の温床になってしまうのである。
今回の四川地震での、ひどい土砂災害も、もしかしたら、山の管理に問題があったのではないかと想像される。
もしそうだとしたら、四川地震の教訓は木の家が弱いと言うことではなく、木を上手に管理して使わなくてはならない、ということになるだろう。


■木に触れること

たぶん、生まれてから木にさわったことのない人は、めずらしくないと思う。
木だと思っていても、ただのプリントだったり、良くできたプラスティックだったり、中身は木でも樹脂の塗装で覆われていたりで、木そのものにさわる機会はなかなか無いはずだ。

普通の生活で木にさわれるとしたら、東急ハンズやホームセンターなどの木材コーナーへ行くか、ホームページなどで無垢の木を使った家具屋さんを捜して見に行くくらいだろう。
それでも、日本の山でいじめられてきた杉や桧にあえる確率は、半々といったところ。

私自身は、常に木に囲まれているから、木のない生活というものが考えられないけれども、ビニールと合成樹脂に囲まれて暮らしている方は、ぜひとも木に触れてみてほしい。
できれば、店先でちょこっとさわるのではなく、杉の木の床をさわり、歩き、転がってみてほしい。

yuka.jpg


最近は、私と同じように、国産の木にこだわって作っています、という設計や施工の人もぼちぼち増えているので、ホームページで探せば、近くで見学会などをやっているかもしれない。
(あとの営業には責任もちませんが・・・)

関西の方には、こんなお知らせもどうぞ 

木の良さを語れば本が書けるので、ここでは「とにかく触れてみて」と言うだけにしておくけれども、それをきっかけにして、虐げられてきた日本の木を見直してもらえればこんな嬉しいことはない。



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