2009-01-31(Sat)
大不況のなかで家を建てるには
仕事ばかりか住むところさえなくす人が激増しているなかで、家を建てることができる人は、その幸運を大事にしてもらいたい。
いくら減少しているとはいえ、マンションなどを別にしても、年間40万軒くらいの家が建っている。
そのほとんどが、「4号もの」と呼ばれ、ごく簡単な確認申請で建てることができる木造2階建て。
多くの人は、耐震偽装事件の反省で、建築基準法とかが厳しくなったから、少しは安心になったとおもっている。
が、それはとんでもない誤解だ。
「誰も責任を取らない」という本質的な問題は、ひどくなりはしても良くはなっていない。
なにせ、建築基準法の改「正」は、役所が責任を取らないための改「正」なのだから。
検査機関も可哀想なモノで、お客さんをチェックするという立場で、厳しいことも言いにくいし、かといって役所に睨まれたら許認可を取り消される。
少なからぬ建築士や工務店は、「とにかく検査さえ通せばいい」 と考えている。
これは、本当に、間違いない。
実際にたつモノの構造が強いか弱いか なんて本気で考えている「プロ」は少数派だ。
もう一つ、一般の人が誤解しているのは、「ほとんどの木造住宅は構造計算なんてしていない」 ということだ。
えっ 計算の偽装どころか、計算そのものをしていないの?? と驚くかもしれない。
でも、それは、天地天命に誓って ウソじゃない。
もちろん、何の規制もなく好き勝手に建てているわけではない。
「最低限こうしなさい」という基準があって、それだけは守っているということ。
それも、検査さえ通れば、という程度だから怪しいモノだけれども、とりあえずはその程度のことはしている。
だから、いたずらに不安をかき立てるつもりはないけれども、でもやはり、これで良いんだろうかと思ってしまう。
その理由は、構造計算をしてみると分かる。
「最低限こうしなさい」という基準の、1.5倍くらいにしておかないと、構造計算ではOKにならない。
これも、一応言っておくと、構造計算するときの安全率というのがあって、最低限よりもだいぶ余裕をもたせるから、当然1.5倍くらいになるという面はある。
そうは言っても、木造2階建て以外のものは、当たり前のように構造計算をしているのだから、木造だって当然同じ土俵に乗ってしかるべきだ。
木造の現場をずっと見ていて思うのは、職人さんが木造を「軽く見ている」ということ。
もちろん全部ではないが、多くの職人が、マンションなどの現場では絶対にやらないようなことを平気でやらかす。
いちばん多いのは、電気屋さんや水道屋さんが、梁や柱に大穴をブチ開けること。
電線や水道管が通りにくいと、いとも簡単に、何の相談もなく、構造体である柱や梁にドリルする。
鉄骨やコンクリートの場合は、どの位置にどういう大きさで穴を開けるか、ということを現場監督も職人も認識している。
中には、お構いなしの現場もあるかもしれないが、これは明確な手抜き欠陥工事になる。
ところが、木造の場合は、現場監督も職人も、何の迷いもなく好きなように穴をブチ開ける。
これはやはり、4号ものという特例で、簡単に作れるようにしてきたことの弊害なのではないか。
建築基準法をいじくって、実際にはどうでもいいことをチマチマと厳格化するよりも、構造計算を義務化することと、そのための工務店、設計事務所、職人の教育体制をつくることが重大事だ。
2兆円ばらまきのくだらない景気対策モドキをするくらいならば、その金の一部でもこうしたところに使ってプロを養成すれば、家を建てる人は安心して金を払えるというものだ。
しかし、実際には国は、こうした建築の現場の内実には一切手を触れようとしない。
実は、「4号もの」という扱いは、早晩消えることにはなっている。
構造計算までは求められないが、少しだけ構造の内容まで確認申請でチェックすることになる。
ところが、それをするための現場に人間の養成が遅々として進んでいない。
このまま4号ものの廃止をすれば、大量の工務店が倒産しかねない。
で、廃止の期日はずるずると引き延ばされ、今のところ、やるともやらないとも、ハッキリした話がない。
木の家を愛してやまない人々の中には、「4号ものの廃止は木造文化の危機だ」という方も多い。
その気持ちはよく分かる。
本当に、今のまま、強引に4号ものを廃止したら、小規模な街の工務店や大工さんは完全に干あがってしまう。
しかし、だから廃止するな ということにはならないだろう。
廃止しても困らないような体制を作ればいいだけのこと。
40万軒の木造住宅のうち、街の工務店などが施工するのは25万軒程度かと思われる。
大工や、工務店の社員や、プレカット工場や、設計事務所などを対象に、木造の構造についての教育と試験を行って、とりあえず5000人くらいの人材を確保すれば、4号もの廃止後の対応くらいは十分だろう。
その教育に一人10万かかっても、総額5億円だ。ばらまく2兆円の0.025%に過ぎない。
今や、住宅も建築も不況の真っ盛りなのだから、ちょっと構造に明るい人間なら喜んで勉強するだろう。
一軒当たりたとえば5万円の手数料だとすると、50軒やれば250万円。ちょっとした雇用創出だ。
しかも、家を建てるお客さんにすれば、5万円で今までよりはいくらか安心できる。
と、こんなことを何故やらないかと不思議だが、そこが麻生の真骨頂。
いらんことはなんでもするが、必要なことは一切しない。
と、文句を言っていても、家はどんどん建っていく。
しかも、4号ものについては、いつどうなるか全く不透明。
しかもしかも、廃止しても、ちょっとマシという程度で、制度が形骸化すれば、手続きがややこしくなるだけで家自体のためには何もならない という一昨年の建築基準法改悪と同じ轍を踏むかもしれない。
そうなると、とりあえずできることは、設計仲間には木造の構造計算を勉強しよう と呼びかけること。
工務店の仲間には、ちょっと費用がかかるけれど、構造計算をして建てよう、と呼びかけること。
それが、周囲の仲間を超えて、徐々に広がってくれれば。
そんなことを考えて、今の仕事が一段落する3月くらいから、木造の構造計算業務を始めようかと思っている。
これまでは、自分で設計したモノを自分で構造計算していたのだけれど、もうちょっと勉強して、計算自体を仕事の一つにしてみたい。
それと、自分の勉強を兼ねて、有志での木造の構造計算の勉強会を企画してみよう。
計算はできないけれど木造はよく知っているという連中と、木造はよく分からないけれども鉄骨やコンクリートの計算は専門だという連中がうまくコラボできれば、結構行けそうな気がする。
最後に、不況になると怖い、という例を一つ
東電の4―12月期、1990億円の経常赤字
2009.1.30 日経
柏崎原発7号機「使用停止」解除へ
2009.1.30 読売
プラントのメンテナンス関係の仕事をしている友人が、最近柏崎原発に行ってきたという。
ぜんぜん復旧の目処が立っていないと、彼は見聞してきた。
使用停止を解除すると言っても、原子炉自体の安全性を確認したわけではない。
消防署が「7号機はすべての消防設備の健全性が確認された」と言っているだけだ。
あくまで「消防設備」。
原子炉自体が、今いったいどうなっているのか。
柏崎刈羽原発のホームページを見ても分かるとおり、未だ点検すら終わっていない。
1年半、いったい何をしていたのか。
じつは、この遅さの原因は想像が付く。
なにせ、原子炉の中に入らなくては、最後の仕上げができない。
が、一回に何秒とかの決められた時間で作業をする。そして、一人の作業員が何回か入ると、もう限界に達して、その人はもう使えない。
そんなことをしながら、点検とか作業とかをすることになる。
さっさと進むわけがない。
では、進められてきた耐震化工事はどうなのか。
これもホームページを見ると、原子炉の建物自体の耐震化など、何もされていない。
されたのは、配管や屋根やクレーンの補強だけのようだ。
もともと、原発は無茶をして作られ、無茶をして運転されている。
そこに、東電の屋台骨を揺るがす被害が生じ、追い打ちをかけるように大不況が押し寄せた。
当然、無茶をしてでも運転再開にもっていく。
マスコミも、あたかも安全が確認されたかのような、わざと誤解をさせる報道をする。
住宅も、規模は違うとはいえ、同じことだ。
これまでも、木造住宅の多くが,無茶をして建てられてきた。
そこに大不況が押し寄せた。
ちょっとでも悪いことを考える業者の頭のなかが、透けて見えるではないか。
当然、もっと無茶をして建てようとする。
そんな時代だからこそ、木造2階建てといえども、せめて構造計算はしておいた方がいい。
麻生君も太田君も、決して助けてはくれないのだから。
いくら減少しているとはいえ、マンションなどを別にしても、年間40万軒くらいの家が建っている。
そのほとんどが、「4号もの」と呼ばれ、ごく簡単な確認申請で建てることができる木造2階建て。
多くの人は、耐震偽装事件の反省で、建築基準法とかが厳しくなったから、少しは安心になったとおもっている。
が、それはとんでもない誤解だ。
「誰も責任を取らない」という本質的な問題は、ひどくなりはしても良くはなっていない。
なにせ、建築基準法の改「正」は、役所が責任を取らないための改「正」なのだから。
検査機関も可哀想なモノで、お客さんをチェックするという立場で、厳しいことも言いにくいし、かといって役所に睨まれたら許認可を取り消される。
少なからぬ建築士や工務店は、「とにかく検査さえ通せばいい」 と考えている。
これは、本当に、間違いない。
実際にたつモノの構造が強いか弱いか なんて本気で考えている「プロ」は少数派だ。
もう一つ、一般の人が誤解しているのは、「ほとんどの木造住宅は構造計算なんてしていない」 ということだ。
えっ 計算の偽装どころか、計算そのものをしていないの?? と驚くかもしれない。
でも、それは、天地天命に誓って ウソじゃない。
もちろん、何の規制もなく好き勝手に建てているわけではない。
「最低限こうしなさい」という基準があって、それだけは守っているということ。
それも、検査さえ通れば、という程度だから怪しいモノだけれども、とりあえずはその程度のことはしている。
だから、いたずらに不安をかき立てるつもりはないけれども、でもやはり、これで良いんだろうかと思ってしまう。
その理由は、構造計算をしてみると分かる。
「最低限こうしなさい」という基準の、1.5倍くらいにしておかないと、構造計算ではOKにならない。
これも、一応言っておくと、構造計算するときの安全率というのがあって、最低限よりもだいぶ余裕をもたせるから、当然1.5倍くらいになるという面はある。
そうは言っても、木造2階建て以外のものは、当たり前のように構造計算をしているのだから、木造だって当然同じ土俵に乗ってしかるべきだ。
木造の現場をずっと見ていて思うのは、職人さんが木造を「軽く見ている」ということ。
もちろん全部ではないが、多くの職人が、マンションなどの現場では絶対にやらないようなことを平気でやらかす。
いちばん多いのは、電気屋さんや水道屋さんが、梁や柱に大穴をブチ開けること。
電線や水道管が通りにくいと、いとも簡単に、何の相談もなく、構造体である柱や梁にドリルする。
鉄骨やコンクリートの場合は、どの位置にどういう大きさで穴を開けるか、ということを現場監督も職人も認識している。
中には、お構いなしの現場もあるかもしれないが、これは明確な手抜き欠陥工事になる。
ところが、木造の場合は、現場監督も職人も、何の迷いもなく好きなように穴をブチ開ける。
これはやはり、4号ものという特例で、簡単に作れるようにしてきたことの弊害なのではないか。
建築基準法をいじくって、実際にはどうでもいいことをチマチマと厳格化するよりも、構造計算を義務化することと、そのための工務店、設計事務所、職人の教育体制をつくることが重大事だ。
2兆円ばらまきのくだらない景気対策モドキをするくらいならば、その金の一部でもこうしたところに使ってプロを養成すれば、家を建てる人は安心して金を払えるというものだ。
しかし、実際には国は、こうした建築の現場の内実には一切手を触れようとしない。
実は、「4号もの」という扱いは、早晩消えることにはなっている。
構造計算までは求められないが、少しだけ構造の内容まで確認申請でチェックすることになる。
ところが、それをするための現場に人間の養成が遅々として進んでいない。
このまま4号ものの廃止をすれば、大量の工務店が倒産しかねない。
で、廃止の期日はずるずると引き延ばされ、今のところ、やるともやらないとも、ハッキリした話がない。
木の家を愛してやまない人々の中には、「4号ものの廃止は木造文化の危機だ」という方も多い。
その気持ちはよく分かる。
本当に、今のまま、強引に4号ものを廃止したら、小規模な街の工務店や大工さんは完全に干あがってしまう。
しかし、だから廃止するな ということにはならないだろう。
廃止しても困らないような体制を作ればいいだけのこと。
40万軒の木造住宅のうち、街の工務店などが施工するのは25万軒程度かと思われる。
大工や、工務店の社員や、プレカット工場や、設計事務所などを対象に、木造の構造についての教育と試験を行って、とりあえず5000人くらいの人材を確保すれば、4号もの廃止後の対応くらいは十分だろう。
その教育に一人10万かかっても、総額5億円だ。ばらまく2兆円の0.025%に過ぎない。
今や、住宅も建築も不況の真っ盛りなのだから、ちょっと構造に明るい人間なら喜んで勉強するだろう。
一軒当たりたとえば5万円の手数料だとすると、50軒やれば250万円。ちょっとした雇用創出だ。
しかも、家を建てるお客さんにすれば、5万円で今までよりはいくらか安心できる。
と、こんなことを何故やらないかと不思議だが、そこが麻生の真骨頂。
いらんことはなんでもするが、必要なことは一切しない。
と、文句を言っていても、家はどんどん建っていく。
しかも、4号ものについては、いつどうなるか全く不透明。
しかもしかも、廃止しても、ちょっとマシという程度で、制度が形骸化すれば、手続きがややこしくなるだけで家自体のためには何もならない という一昨年の建築基準法改悪と同じ轍を踏むかもしれない。
そうなると、とりあえずできることは、設計仲間には木造の構造計算を勉強しよう と呼びかけること。
工務店の仲間には、ちょっと費用がかかるけれど、構造計算をして建てよう、と呼びかけること。
それが、周囲の仲間を超えて、徐々に広がってくれれば。
そんなことを考えて、今の仕事が一段落する3月くらいから、木造の構造計算業務を始めようかと思っている。
これまでは、自分で設計したモノを自分で構造計算していたのだけれど、もうちょっと勉強して、計算自体を仕事の一つにしてみたい。
それと、自分の勉強を兼ねて、有志での木造の構造計算の勉強会を企画してみよう。
計算はできないけれど木造はよく知っているという連中と、木造はよく分からないけれども鉄骨やコンクリートの計算は専門だという連中がうまくコラボできれば、結構行けそうな気がする。
最後に、不況になると怖い、という例を一つ
東電の4―12月期、1990億円の経常赤字
2009.1.30 日経
柏崎原発7号機「使用停止」解除へ
2009.1.30 読売
プラントのメンテナンス関係の仕事をしている友人が、最近柏崎原発に行ってきたという。
ぜんぜん復旧の目処が立っていないと、彼は見聞してきた。
使用停止を解除すると言っても、原子炉自体の安全性を確認したわけではない。
消防署が「7号機はすべての消防設備の健全性が確認された」と言っているだけだ。
あくまで「消防設備」。
原子炉自体が、今いったいどうなっているのか。
柏崎刈羽原発のホームページを見ても分かるとおり、未だ点検すら終わっていない。
1年半、いったい何をしていたのか。
じつは、この遅さの原因は想像が付く。
なにせ、原子炉の中に入らなくては、最後の仕上げができない。
が、一回に何秒とかの決められた時間で作業をする。そして、一人の作業員が何回か入ると、もう限界に達して、その人はもう使えない。
そんなことをしながら、点検とか作業とかをすることになる。
さっさと進むわけがない。
では、進められてきた耐震化工事はどうなのか。
これもホームページを見ると、原子炉の建物自体の耐震化など、何もされていない。
されたのは、配管や屋根やクレーンの補強だけのようだ。
もともと、原発は無茶をして作られ、無茶をして運転されている。
そこに、東電の屋台骨を揺るがす被害が生じ、追い打ちをかけるように大不況が押し寄せた。
当然、無茶をしてでも運転再開にもっていく。
マスコミも、あたかも安全が確認されたかのような、わざと誤解をさせる報道をする。
住宅も、規模は違うとはいえ、同じことだ。
これまでも、木造住宅の多くが,無茶をして建てられてきた。
そこに大不況が押し寄せた。
ちょっとでも悪いことを考える業者の頭のなかが、透けて見えるではないか。
当然、もっと無茶をして建てようとする。
そんな時代だからこそ、木造2階建てといえども、せめて構造計算はしておいた方がいい。
麻生君も太田君も、決して助けてはくれないのだから。
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