2009-06-06(Sat)
「緑のオーナー」 問題の根っこ
育てているはずの牛さんがどこにもいなかった というほど酷くはないが、まあ大差ないのが国営詐欺「緑のオーナー」制度。
地味な宣伝ながら500億円をかき集めた。林野庁の年間予算の1割を上回る金額だ。林野庁のホームページによれば、昭和59年から平成10年までの間に、人数にして8万6千人、口数にして10万4千口(一口50万円)を集め、平成11年から18年にそのうちの1万人分を売却した。で、50万円が32万7千円(65.4%)になり果てた。
その結果が、昨日の集団訴訟ということになっている。
緑のオーナーで国賠提訴=「元本割れリスク説明なし」-大阪地裁
2009.6.5 時事通信
1万人の被害者のウチの75人だから、裁判の様子を見ている人が大量にいる。このへんのことは、弁護団のホームページに任せるとして、私としては、森林の側からちょっと考えてみたい。
緑のオーナーのような、いわゆる分収林という仕組みは珍しいものではない。林業の本場である奈良県吉野地方では、ごく普通に行われている。ここでは山守制度といい、山のオーナー(山主)は街の金持ちで、実際に手入れをする人は山守といい、その山で木を育てて売る権利を持っている。売った金は山主と折半(比率は知らないが)する。全部木を切ってしまったら、山守は権利を失って山主に山を返さなくてはならない。
こんな仕組みが何でできたのかというと、聞いた話では、借金のカタで山を手放すとき、金貸しは山をもらっても困ってしまう。そこで、元の持ち主を山守として山の管理をさせたのが始まりとか。
ところが、この制度のおかげで吉野は林業のメッカになることができた。つまり、山守にしてみれば、数十年の間に最大限の利益を出さなくてならない。何代にもわたる気の長い話をしていられない。そのため、試行錯誤を重ねて林業の技術を磨いたのだそうだ。
だから、分収林という仕組み自体が林業にとって悪いというものでもない。問題は、林業にお金を突っ込むときに、どの分野にどのように入れるのか ということだ。
林野庁の予算は、毎年4千数百億円ある。森林整備の治山事業で約3千億、地域安全の治山事業で約1千億。つまり、林野庁の予算のほとんどは、治山事業に消えている。その他の「山村再生システムの構築」とか「国産材利用拡大」とか「新たな森林経営政策の確立」なんていうのは、同じくらいの文字の大きさだけれども、予算額は一桁も二桁も小さい。
おおざっぱに言ってしまうと、林野町予算のほとんどは土木工事に消えているのである。
もちろん、必要な土木工事もあるだろうけれども、そうでないのも非常に多いと言うことはかねてから多くの識者が指摘している。
何よりも大事なことは、林業が食っていける商売になることだ。そうなれば、ほとんどの問題は解決する。
非常に誤解が多いので、どなた様もよ~く知っておいていただきたいのは、
国産材は安い ということ。
国産の杉は、流通している建築用材の中で一番安い。輸入材より安い。
もちろん、昔は高かったけれども、下落に次ぐ下落を重ねて、もう何年も前から価格は逆転している。
にもかかわらず、なんて国産材は売れなくて困っているのか?
ここに焦点をあてて、膨大な国家予算をつぎ込めば、問題解決は難しいことじゃない。
のだが、そうはならない。
それと、もうひとつ、知っておいていただきたいのは、
立木の価格と木材の価格は別物 ということ。
立木の価格がもし2倍になると、家をつくる木材の価格も2倍になるか? そんなことはない。木材の価格のウチ、立木の価格、つまり材料原価の部分は7~8%にすぎない。つまり、立木の値段が2倍になっても、木材の価格は7%くらいしか上がらない。3000円の柱が3200円になる。
あとの93%は何かというと、木を切って、山からおろして、運搬して、市場で競りにかけて、製材して、運搬して、また競りにかけて、運搬して、・・・・ という人件費と販売手数料だ。
だから、緑のオーナーが被っている35%くらいの損失は、製材された木材価格の中では2~3%にすぎない。
たったこれだけのことが何で解決できないのか。原因は、山の現場を知っていれば誰でもわかっていることだ。
在庫負担、乾燥、運搬、プレカット。ほとんどここに集約される。
国産材の最大のウィークポイントは実は価格ではなく、納期だ。注文受けてから最低でも1ヶ月半はかかる。これは、今の建築業界では通用しない。これを2週間に短縮しようと思ったら、相当量の在庫を持たなくてはならないが、その資金をだれが負担するのか。
輸入材は、そこの部分を商社が負担しているが、国産材の場合そのリスクと資金を負担する人がいない。都道府県単位や山地単位で流通センターを作って、そこへ切った木を持って行けば随時買い取ってもらえ、注文すれば随時出荷される、という仕組みがあれば、国産材は絶対に売れる。
ただ、木材は丸太のままじゃ使えない。乾燥とプレカットという工程が、今どきは欠かせない。でも、この施設は不足している。小規模では初期投資が大きすぎて採算がとれないから、簡単につくるわけにもいかない。これも、産地単位くらいで共同工場を作って、適正価格でいつでも利用できるようにすれば、問題は一気に解決する。
ちなみに、木材(とくに杉)の乾燥は、その技術も不安定だ。各地の試験場などがバラバラに研究しているが、まだ正解はだれも見つけていない。しかも、産地ごとに木の性質が違うので、方法も変わってくる。この分野にも、しっかりと研究費を投じて、情報の共有もはかれば格段に進歩するはずだ。
こんな程度のこと、かりに48都道府県に平均10億出しても、500億。ところが、十年一日のごとく土木工事と目先の補助金にばかり税金をつぎ込み、林業を食える産業にしようという気配はサラサラないようだ。
もちろん、元本割れの説明がなかったことも問題だし、任意の売却を入札と偽るのも問題だけれども、緑のオーナーも含めた林業政策のより根本的な問題は、このへんにある と私は思っている。

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地味な宣伝ながら500億円をかき集めた。林野庁の年間予算の1割を上回る金額だ。林野庁のホームページによれば、昭和59年から平成10年までの間に、人数にして8万6千人、口数にして10万4千口(一口50万円)を集め、平成11年から18年にそのうちの1万人分を売却した。で、50万円が32万7千円(65.4%)になり果てた。
その結果が、昨日の集団訴訟ということになっている。
緑のオーナーで国賠提訴=「元本割れリスク説明なし」-大阪地裁
2009.6.5 時事通信
1万人の被害者のウチの75人だから、裁判の様子を見ている人が大量にいる。このへんのことは、弁護団のホームページに任せるとして、私としては、森林の側からちょっと考えてみたい。
緑のオーナーのような、いわゆる分収林という仕組みは珍しいものではない。林業の本場である奈良県吉野地方では、ごく普通に行われている。ここでは山守制度といい、山のオーナー(山主)は街の金持ちで、実際に手入れをする人は山守といい、その山で木を育てて売る権利を持っている。売った金は山主と折半(比率は知らないが)する。全部木を切ってしまったら、山守は権利を失って山主に山を返さなくてはならない。
こんな仕組みが何でできたのかというと、聞いた話では、借金のカタで山を手放すとき、金貸しは山をもらっても困ってしまう。そこで、元の持ち主を山守として山の管理をさせたのが始まりとか。
ところが、この制度のおかげで吉野は林業のメッカになることができた。つまり、山守にしてみれば、数十年の間に最大限の利益を出さなくてならない。何代にもわたる気の長い話をしていられない。そのため、試行錯誤を重ねて林業の技術を磨いたのだそうだ。
だから、分収林という仕組み自体が林業にとって悪いというものでもない。問題は、林業にお金を突っ込むときに、どの分野にどのように入れるのか ということだ。
林野庁の予算は、毎年4千数百億円ある。森林整備の治山事業で約3千億、地域安全の治山事業で約1千億。つまり、林野庁の予算のほとんどは、治山事業に消えている。その他の「山村再生システムの構築」とか「国産材利用拡大」とか「新たな森林経営政策の確立」なんていうのは、同じくらいの文字の大きさだけれども、予算額は一桁も二桁も小さい。
おおざっぱに言ってしまうと、林野町予算のほとんどは土木工事に消えているのである。
もちろん、必要な土木工事もあるだろうけれども、そうでないのも非常に多いと言うことはかねてから多くの識者が指摘している。
何よりも大事なことは、林業が食っていける商売になることだ。そうなれば、ほとんどの問題は解決する。
非常に誤解が多いので、どなた様もよ~く知っておいていただきたいのは、
国産材は安い ということ。
国産の杉は、流通している建築用材の中で一番安い。輸入材より安い。
もちろん、昔は高かったけれども、下落に次ぐ下落を重ねて、もう何年も前から価格は逆転している。
にもかかわらず、なんて国産材は売れなくて困っているのか?
ここに焦点をあてて、膨大な国家予算をつぎ込めば、問題解決は難しいことじゃない。
のだが、そうはならない。
それと、もうひとつ、知っておいていただきたいのは、
立木の価格と木材の価格は別物 ということ。
立木の価格がもし2倍になると、家をつくる木材の価格も2倍になるか? そんなことはない。木材の価格のウチ、立木の価格、つまり材料原価の部分は7~8%にすぎない。つまり、立木の値段が2倍になっても、木材の価格は7%くらいしか上がらない。3000円の柱が3200円になる。
あとの93%は何かというと、木を切って、山からおろして、運搬して、市場で競りにかけて、製材して、運搬して、また競りにかけて、運搬して、・・・・ という人件費と販売手数料だ。
だから、緑のオーナーが被っている35%くらいの損失は、製材された木材価格の中では2~3%にすぎない。
たったこれだけのことが何で解決できないのか。原因は、山の現場を知っていれば誰でもわかっていることだ。
在庫負担、乾燥、運搬、プレカット。ほとんどここに集約される。
国産材の最大のウィークポイントは実は価格ではなく、納期だ。注文受けてから最低でも1ヶ月半はかかる。これは、今の建築業界では通用しない。これを2週間に短縮しようと思ったら、相当量の在庫を持たなくてはならないが、その資金をだれが負担するのか。
輸入材は、そこの部分を商社が負担しているが、国産材の場合そのリスクと資金を負担する人がいない。都道府県単位や山地単位で流通センターを作って、そこへ切った木を持って行けば随時買い取ってもらえ、注文すれば随時出荷される、という仕組みがあれば、国産材は絶対に売れる。
ただ、木材は丸太のままじゃ使えない。乾燥とプレカットという工程が、今どきは欠かせない。でも、この施設は不足している。小規模では初期投資が大きすぎて採算がとれないから、簡単につくるわけにもいかない。これも、産地単位くらいで共同工場を作って、適正価格でいつでも利用できるようにすれば、問題は一気に解決する。
ちなみに、木材(とくに杉)の乾燥は、その技術も不安定だ。各地の試験場などがバラバラに研究しているが、まだ正解はだれも見つけていない。しかも、産地ごとに木の性質が違うので、方法も変わってくる。この分野にも、しっかりと研究費を投じて、情報の共有もはかれば格段に進歩するはずだ。
こんな程度のこと、かりに48都道府県に平均10億出しても、500億。ところが、十年一日のごとく土木工事と目先の補助金にばかり税金をつぎ込み、林業を食える産業にしようという気配はサラサラないようだ。
もちろん、元本割れの説明がなかったことも問題だし、任意の売却を入札と偽るのも問題だけれども、緑のオーナーも含めた林業政策のより根本的な問題は、このへんにある と私は思っている。

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