2006-02-23(Thu)

耐震偽装のもう一つの側面

耐震偽装問題が、安晋会ー安倍晋三ーコイズミ政権への痛打という方向ではなく、なにやら「建築確認制度が悪い」とか「建築士制度が生ぬるい」とか言う方向に流れていきそうで、武部次男問題と並んで、見ていてイライラしてしまう。

この辺を論じるのは、このブログの本意ではないのだが、一度まとめておくのもいいかと思い、書いてみる。

■建築確認という変なことば

建築確認制度がおかしいのは、とうの昔からわかっていたこと。だいたい、普通「確認」なんて言葉使わない。私は職業柄、普通に聞こえてしまうけれど、建築屋以外は、お上の制度に「確認」なんて聞いたことがないのではないか。

要するに、お上が「責任は取らないけれど、文句は言う」というのが「建築確認制度」だ。だから、あれこれ恣意的な部分も含めて文句は言う。建築家の自己責任による設計というものを、最初から否定している。

もし、建築確認が無くて、設計上何かあればすべて建築家の責任、ということがハッキリしていれば、建築家ももっと緊張感をもった職業になるはずだ。

ところが、今回の耐震偽装事件でハッキリしたように、確認を下ろしたからと行って、その結果に責任は取ってくれない。責任を取るのであれば、これまでの全ての設計の間違いによる被害を行政が補償しなければならない。

もちろん確認書に記載されるべき事項についてではあるが、姉歯に限らず、単純な設計ミスを含めてすべてである。

しかし、そんなことは絶対にしない。断言してもいい。

要するに、確認に記載されたことが間違っていた場合、責任を取る人はいない。そういう状態でこれまで、ず~と建築物は建ってきたのだ。

これが建築「確認」という変な制度の正体だ。

裏を返せば、その穴を埋めてきたのは、施工者なのである。木村建設は言うに及ばず、ゼネコンや工務店と言っただけで「怪しい」と思われる今日この頃だが、必ずしもそんな会社ばかりではない。

というより、日本の設計者の図面そのままでは、大概建物は建たない。施工図という図面を書き直して、チェックして、それから建てないと、とんでもないものができあがるだろう。

それ自体は、手抜きや間違いというのではなく、施主の要望から始まって、建物が建つまでのステップの、どこまでを設計者が担当し、どこまでを施工者が担当するかという、分担の違いなのだ。

設計者は、施主の要望を図面上の形にすることが主な仕事、その図面をどうやったら実際に工事できるかを考えるのは施工者の仕事、と言うような大まかな線引きがある。


■建築家の責任

こうして書いてくると、建築家は、偉そうな顔だけしているけれど、建築確認には責任取らないは、実際の施工に至るステップには責任取らないは、一体なんなんだ! と叱られそうだ。

いままさに、建築士制度の見直しなどと言われているのは、こうした流れになるのだろう。しかし、チョット待って欲しい。

この流れは、どこへつながるか。そう、ほとんどの建築家が、大きな組織に系列化されていくだろう。今でも、総研と平成設計のような系列化された設計事務所は珍しくないが、今はかろうじて独立系の事務所も、今と同じコストで今に数倍する責任を課せられれば、寄らば大樹の陰にならざるを得ない。

住宅メーカー、大手ゼネコン、デベロッパー、何のことは無い、今回の耐震偽装問題で登場した面々と同じように、自分の頭で間が流ことのできない、もっとも危険な構図がどんどん広がっていくのだ。

平成設計の社長のように、おどおどと親会社の顔色をうかがう連中ばかりになっていくのだ。

しかも、特徴的なのは、社員ですらないということ。デベロッパーもゼネコンも、社員は総括する人間だけ。実働部隊は全て外注。

設計事務所が、全てこの外注系列に組織化されてしまったら、ほんとうにこの世の建築は無責任の限りのを尽くすことになる。

建築家は本来(少なくとも形式的には)、たった一人の事務所でも、巨大デベロッパーと同等に話ができる。施工図を書いてもらって、少々のミスはチェックしてもらって、と結構お世話になる施工者だが、そうかと言って言うなりになるわけにはいかない。

やはり、施工ミスや手抜きは頻発しているのが実情だ。総研やヒューザーに縁もゆかりも無い会社でも、決して安心はできない。そんな時に、建築家一人が最低限の良心をもっていれば、結構防げる問題は多いのだ。

ところが、建築家がすべて系列化していれば、ヘタに手抜きを指摘したら、おまんま食い上げである。こういう建築家もどきばかりにしてしまおうというのが、今取りざたされている建築士制度の見直し なのである。

■施工ミスや欠陥のおきるお決まりのコース

もうひとつ、施工ミスや手抜きの問題は、たいがいの場合こうした流れでおきる。
間違える → やり直そうとする → 工期が間に合わないし予算オーバー → 誤魔化してやり過ごす → 発覚しそうになったら政治力を使う

総研やヒューザーのように、初めから偽装するケースは、さすがに少ないと思う。しかし、間違えたことをやり直すのは、なかなか現場監督にすると勇気が要る。とくに、深刻な間違いほどやり直すのにお金と時間がかかるので、土の中やコンクリートの中に埋められてしまうケースが多いと思われる。

ストレイドッグで何度も報じられている、前田興産のマンションなど、典型的だ。

杭のボルトをとめ忘れたのは、たぶんミスだろう。だが、そこからあとは偽装、開き直り、政治力だ。(前田興産社長は、安倍晋三の後援会=安晋会の会員)

さらに恐ろしげなのが、東京湾臨海道路だが、この辺はもう行政も一体になって偽装しているように見受けられる。

ある意味もっと深刻なのが、以前に書いたコンクリートの根本問題だが、これは前の記事を読んで欲しい。


■現場監督の孤独

なぜ現場監督はやり直しができないのか。かんたんだ。監督は会社ではあまり偉くない。平社員であることも多い。これから偉くなろうというのに、進んで現場のミスを報告し、余計な金と時間を使って成績を落とすようなことをするのは、よほど奇特な人である。

にもかかわらず、現場監督の責任は非常に重い。何かあれば、まず責任を問われるのは現場監督だ。逮捕されることだってある。何億円という工事の責任者が、20代の平社員というのが当たり前なのは、他の業種では考えにくい構図ではないか。

しかも、現場は一人で任されることが多い。上司がたまたま太っ腹な人ならいいが、大概は自分の出世が何よりも大事なのは人の世の常だ。


■職人という名も無き人々

数寄屋普請の名人ならばいさ知らず、ビルを建てているのは名も無き職人の集団だ。名も無きなどと言うと、働いている職人諸君から叱られそうだが、責任と権限をもっていないと言う意味だ。

別の言い方をすると、実際に現場で作業をしている職人は、少なくとも孫請け、大概はひ孫請け、場合によるとやしゃ孫請け、である。一番階層の浅い場合を考えてみると、ゼネコンは現場監督のみ、下請けは各業種の職人を集めてくる係だけ、そこに集められたのが日当で働く孫請けの職人、ということだ。実際は、もっと多層化している。

もちろん、それでも自分のする範囲にはプライドをもっている職人も多い。が、逆に、同じ日当ならばできるだけ楽に早くする職人も多い。当然、日当の安い職人ほどそういう傾向が強くなるので、ゼネコンが「安く」と言えば言うほど、そういう職人が集まってくる確率は高くなる。

まあ、これで間違いがおきない方が不思議とも言える。だから私は、姉歯云々に関係なく、建築物、中でも中規模の鉄筋コンクリートは全く信用していない。

そう言いながら、中規模の鉄筋コンクリートのマンションに住まざるを得ない我が経済状況を嘆きつつ、こういう雇用形態が、少なくとも日本の建築の根本問題なのだと指摘したい。

ただしかし、ゼネコンが職人をみな常雇いにしたら、たぶんほとんどのゼネコンは人件費倒産するだろう。問題はそう簡単ではない。


■要するに

こうした構造的な問題をほったらかしにして、建築確認がどうとか、建築士制度がどうとか、結局、大手の言いなりになるようなコースに進めようとすることに、断固反対! ということ。

私もいくつかの工務店には大変お世話になっているし、仲良くさせてもらっている。それは、その工務店とはハッキリものが言い合えるからだ。建築家がその一線を忘れると、姉歯はもう遠くない。
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前田興産と安晋会

前田利幸社長は安倍晋三代議士、吉村文吾・安晋会会長、杉山敏隆・安晋会代表幹事と雑誌で一緒の写真に納まる関係である(「日本を語るワインの会第30回」Apple Town 2005年12月号22頁)。安晋会は安倍晋三代議士の後援会で、ヒューザーの小嶋進社長も加入していると証言し

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